「首くくれって言うの?」300万円の家賃滞納老人…唖然の暴挙

2020/05/15 ブログ

高齢者の「家賃滞納」問題。法律に基づき退去させることも可能だが、財産の少ない高齢者への強制執行に、苦しむオーナーも少なくない。そこで本連載では、章(あや)司法書士事務所代表・太田垣章子氏の書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より、高齢者の賃貸トラブルの実例を挙げ、その実態に迫っていく。

千葉の理容店…80代の夫婦が家賃300万円超を滞納

◆理容店の閉店

千葉の中心からずいぶん離れた駅のすぐ前に、50年以上夫婦で営んでいる理容店がありました。

古い町並みではありますが、若い人も移住してきて、少し活気がでてきたエリアです。理容店の物件は、自宅兼店舗。底地はトータル約40坪の広さで、駅前のいい位置を押さえていました。

新宿に住む家主は、この理容店の滞納に頭を抱えていました。店舗と住居、合わせて家賃9万円。駅前にしては破格値ですが、時代の流れで値上げせずにきてしまったのです。それなのにここ数年滞納気味になり、すでにその額は300万円を超えようとしていました。

なぜここまで滞納額が、増えていってしまったのでしょう。

場所的なことが、理由のひとつでした。理容店という商売をしている関係上、督促の電話をしても「忙しいから」と対応してもらえず、かと言って新宿から2時間近くの時間をかけて督促に行くのも憚られたのです。管理会社に管理を任せる方法もあったのですが、今までずっと自主管理をしていたのでそのままになってしまっていました。

賃借人の夫婦もすでに80代。家主も同じような年齢で、お互いがのらりくらりしている間に月日が経ってしまったということでしょう。もはや当事者では解決できそうになく、訴訟をしてくれとご依頼がありました。

滞納を認めた店主「俺たちに首くくれって言うの?」

まずは内容証明郵便で契約解除になるように滞納額を督促したのですが、賃借人は受け取りません。お店ですから、わざと受け取らない姿勢を示しているとしか考えられません。郵便ポストに投函したという体を得たかったので、同じ内容の特定記録を送りながら、ひとまず現地に行ってみました。

千葉のかなりの田舎に位置していますが、駅前は少し賑わっていました。その中で、ひときわ異質の古めかしいオーラを放っていたのが、問題の物件でした。

古い平家の建物で、住居部分は波形スレートの壁。まさに昭和の倉庫のようにも見えます。店舗部分は道に面したところだけタイルのようなものが貼られていますが、それもところどころ剥がれて落ちています。店舗の入り口横には、理容店の代名詞とも言える赤白青のサインポールが回っていました。

外から覗いてみると、店舗に客はいません。賃借人のご主人が、理容椅子で寝ています。見るからに古そうな店構えでもありました。これでは若い客は来ないでしょう。50年以上営業しているので、この店とともに歳を重ねた近所の高齢者が散髪に来る程度だと思います。家賃が滞納されるのも、納得できる気がしました。

中に入ると、店主は椅子から頭を上げて、怪訝そうな顔でこちらを見ます。

「なに?」

家主の代理人であることや、内容証明郵便を受け取っていただいていないことをお伝えすると、明らかに不機嫌そうな顔です。

「で、どういう用件?」

滞納している事実があるか確認すると、

「滞納しているけどさ……」

それが何か?と言わんばかりの横柄さでした。なんでしょう、この雰囲気は。滞納している理由が、家主側にあるとでも言いたいのでしょうか。

「見てのとおり、客が来ないから滞納になっても仕方ないでしょう」

話になりませんでした。高齢者だし、長年お住まいいただいている賃借人なので敬意を表したいと思っていましたが、こんな態度なら家主が督促から遠ざかってしまったのも分かる気がします。

「滞納されているので、ご退去いただきたいんです。訴訟は提起しますが、任意にご退去いただけるご意向はありますか?」

「俺たちに首くくれって言うの?」

そんなことは一言も言っていませんが、前向きな話はできそうにありませんでした。

「次のお住まいを探されるなら、お手伝いいたします。ご希望をおっしゃってください」

「店舗付き住宅。駅近、家賃3万円で」

明らかにそんな物件は不可能です。

「長年お仕事されてこられていますが、そろそろ引退されるというお考えはないですか? 次にお探しになられる物件は、居住用でないと厳しいと思います」

すると店主は、声を荒らげます。

「年金ないから、働いてるんや」

なるほど、そういうことなら生活保護の申請も必要かもしれません。サポートを申し入れましたが、「帰れ」と店から追い出されてしまいました。